コラム
変化球聖書人物伝~ヨアブ
Author
mito
Date
2020-12-20 07:23
Views
3501
※ この文章は、教会月報2020年10月号から転載したものです。
今月は「変化球聖書人物伝」とまいります。あまりスポットライトが当たらない聖書の人物、しかし私たちが信仰生活を送るにあたって無視できない、模範的な人物、あるいは反面教師的な人物を、今後随時、月報で取り上げてまいりたいと思います。有名人ではない人を取り上げる点で「変化球」ですが、みなさまの霊的成長に益する内容となればと思います。今月は反面教師的な人物として、ヨアブについて学びます。
9月にもつづけてマクチェイン式の聖書通読に取り組んでいらした方には、ヨアブという人物が何者かがおわかりと思います。ダビデ王の軍団長、つまりイスラエル軍の総司令官です。
このヨアブは、ダビデ王にとっては、まさしく「獅子身中の虫」とも言うべき人物です(参考/ヨハネの黙示録5章5節)。自分が敵とみなす人物ならばダビデの忠臣であろうと手をかけ(アブネル、アマサ)、ダビデの命(めい)に背いて王子アブサロムを虐殺し、それで悲嘆にくれるダビデ王に、国民の離反をほのめかすようなきわめて残酷なことばをかけました。時に王を王とも思わぬ態度の辣腕ぶりでイスラエルを治める一員となったヨアブは、ダビデにとってはきわめて手ごわい臣下でした(サムエル記第二3章39節)。
しかしダビデは、このヨアブに対して最大級の警戒をしながらも、自らの悪を糊塗するために、その残忍さを用いなければならなかったこともありました。ダビデが忠臣ウリヤの妻バテ・シェバを妊娠させ、それをウリヤによるものだとすることに失敗するや、ダビデはこともあろうに、ウリヤを激戦地に送って死なせよとの作戦指令書をウリヤ自身に持たせ、ヨアブを動かしました。そしてヨアブは、ウリヤを殺すために派手な戦闘を繰り広げ、ウリヤは死に、しかも部隊にその巻き添えで死ぬ者まで生みました。言ってみればこのとき、ダビデとヨアブはきわめて悪いかたちで共依存の関係になっていたのでした。
ヨアブは、ウリヤがどのような兵士だったか、知りすぎるほど知り抜いていたはずです。それをダビデが突然呼び出し、わずか数日で部隊に戻し、しかも彼を殺せ、とあったとは、ダビデがいったい何をしたか、ヨアブにはぴんと来たのではないでしょうか。王宮のすぐそばに住む、ウリヤの美貌の妻も頭によぎったはずです。この言いつけを守ったらば、王は自分に対して何も言えなくなるはずだ……きっとヨアブは、そんな計算も働いたはずです。ヨアブがほんとうに神の人ダビデの忠臣だったならば、そんな作戦には従わず、ダビデの罪をとがめる立場に回るべきでした。同じ王の臣下でも、ダビデの罪を命を賭してとがめた預言者ナタンとは、何という違いでしょうか。
しかし、このようなヨアブは結局、ダビデの召天の際、クーデターによってダビデの跡継ぎの座を手に入れようとしたアドニヤ王子に与し、その罪をソロモンに問われ、ソロモン王の臣下の軍団長になったベナヤに討ち取られて死にます。軍団長としてライバルの関係にあったアブネルとアマサを殺したヨアブが、新しい軍団長となるベナヤに殺されるとは、何とも皮肉な成り行きですが、これはヨアブにとって、彼が時局を読むのを見誤ったということ以上の意味があります。ヨアブが死んだのは、罪なき者の血を流した者は血を流すことによって罪を償うという、神さまの摂理のゆえです(列王記第一2章6節~7節)。
ヨアブは恐ろしいほどに有能でした。ダビデも彼を用いなければならなかったほどでした。しかしそんな彼も、死に際には主の天幕の祭壇にすがったように(列王記第一2章28節~35節)、自分のしてきたことゆえに主にさばかれることを心底恐れ、主のあわれみを求めました。しかし、聖書に長く綴られたヨアブの記述で、主にすがったと言えそうな箇所は、このいまわの際の箇所だけです。人はたとえ、その能力を発揮して働きを精力的にしようとも、それがたとえ主の働きであろうとも、自分のたましいを救えなかったならば何の意味もありません(マタイの福音書7章21節~23節)。働きはいかに主に関することでもあくまでも働きに過ぎず、救いを担保しません。
ダビデは王位にあってもなお苦労の多い人でしたが、主にある喜びに満ちた人でした。主も、このようなダビデを喜んでくださいました。一方でヨアブは、ダビデの臣下としての禄を食んで高い地位を享受していましたが、悲劇的な最期を迎えました。私たちはダビデのようでしょうか、それともヨアブのようでしょうか?
今月は「変化球聖書人物伝」とまいります。あまりスポットライトが当たらない聖書の人物、しかし私たちが信仰生活を送るにあたって無視できない、模範的な人物、あるいは反面教師的な人物を、今後随時、月報で取り上げてまいりたいと思います。有名人ではない人を取り上げる点で「変化球」ですが、みなさまの霊的成長に益する内容となればと思います。今月は反面教師的な人物として、ヨアブについて学びます。
9月にもつづけてマクチェイン式の聖書通読に取り組んでいらした方には、ヨアブという人物が何者かがおわかりと思います。ダビデ王の軍団長、つまりイスラエル軍の総司令官です。
このヨアブは、ダビデ王にとっては、まさしく「獅子身中の虫」とも言うべき人物です(参考/ヨハネの黙示録5章5節)。自分が敵とみなす人物ならばダビデの忠臣であろうと手をかけ(アブネル、アマサ)、ダビデの命(めい)に背いて王子アブサロムを虐殺し、それで悲嘆にくれるダビデ王に、国民の離反をほのめかすようなきわめて残酷なことばをかけました。時に王を王とも思わぬ態度の辣腕ぶりでイスラエルを治める一員となったヨアブは、ダビデにとってはきわめて手ごわい臣下でした(サムエル記第二3章39節)。
しかしダビデは、このヨアブに対して最大級の警戒をしながらも、自らの悪を糊塗するために、その残忍さを用いなければならなかったこともありました。ダビデが忠臣ウリヤの妻バテ・シェバを妊娠させ、それをウリヤによるものだとすることに失敗するや、ダビデはこともあろうに、ウリヤを激戦地に送って死なせよとの作戦指令書をウリヤ自身に持たせ、ヨアブを動かしました。そしてヨアブは、ウリヤを殺すために派手な戦闘を繰り広げ、ウリヤは死に、しかも部隊にその巻き添えで死ぬ者まで生みました。言ってみればこのとき、ダビデとヨアブはきわめて悪いかたちで共依存の関係になっていたのでした。
ヨアブは、ウリヤがどのような兵士だったか、知りすぎるほど知り抜いていたはずです。それをダビデが突然呼び出し、わずか数日で部隊に戻し、しかも彼を殺せ、とあったとは、ダビデがいったい何をしたか、ヨアブにはぴんと来たのではないでしょうか。王宮のすぐそばに住む、ウリヤの美貌の妻も頭によぎったはずです。この言いつけを守ったらば、王は自分に対して何も言えなくなるはずだ……きっとヨアブは、そんな計算も働いたはずです。ヨアブがほんとうに神の人ダビデの忠臣だったならば、そんな作戦には従わず、ダビデの罪をとがめる立場に回るべきでした。同じ王の臣下でも、ダビデの罪を命を賭してとがめた預言者ナタンとは、何という違いでしょうか。
しかし、このようなヨアブは結局、ダビデの召天の際、クーデターによってダビデの跡継ぎの座を手に入れようとしたアドニヤ王子に与し、その罪をソロモンに問われ、ソロモン王の臣下の軍団長になったベナヤに討ち取られて死にます。軍団長としてライバルの関係にあったアブネルとアマサを殺したヨアブが、新しい軍団長となるベナヤに殺されるとは、何とも皮肉な成り行きですが、これはヨアブにとって、彼が時局を読むのを見誤ったということ以上の意味があります。ヨアブが死んだのは、罪なき者の血を流した者は血を流すことによって罪を償うという、神さまの摂理のゆえです(列王記第一2章6節~7節)。
ヨアブは恐ろしいほどに有能でした。ダビデも彼を用いなければならなかったほどでした。しかしそんな彼も、死に際には主の天幕の祭壇にすがったように(列王記第一2章28節~35節)、自分のしてきたことゆえに主にさばかれることを心底恐れ、主のあわれみを求めました。しかし、聖書に長く綴られたヨアブの記述で、主にすがったと言えそうな箇所は、このいまわの際の箇所だけです。人はたとえ、その能力を発揮して働きを精力的にしようとも、それがたとえ主の働きであろうとも、自分のたましいを救えなかったならば何の意味もありません(マタイの福音書7章21節~23節)。働きはいかに主に関することでもあくまでも働きに過ぎず、救いを担保しません。
ダビデは王位にあってもなお苦労の多い人でしたが、主にある喜びに満ちた人でした。主も、このようなダビデを喜んでくださいました。一方でヨアブは、ダビデの臣下としての禄を食んで高い地位を享受していましたが、悲劇的な最期を迎えました。私たちはダビデのようでしょうか、それともヨアブのようでしょうか?
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