牧会コラム233「創世記のヤコブ3」

箴言にこのようなみことばがあります。「銀から金（かな）かすを除け。そうすれば細工人に、良い器ができあがる。」聖書のみことばは、神さまのことを、「器」なる人間を形づくる匠（たくみ）になぞらえています。言うまでもなく匠は、いざつくるからには目の前の材料を用いて、最高の作品をつくることに専念します。必要がない成分は取り除きます。しかし、金（かね）の器をつくるならば、陶器をつくる窯よりもよほど高温にした炉でまず金属をどろどろに溶かします。そうしないと、不必要な成分がどれなのかが見えてきません。人はそのように、熱い火を通らされるがごときお取り扱いを受け、そして素晴らしく変えられます。ヤコブがそうでした。

　ヤコブは、生まれたときから兄にまさる祝福を受けることが約束されていたならば、ただ黙ってその祝福を待ち望み、その時と状況を神の摂理に委ねていれば、その祝福を受け継ぐべき人として満点でした。しかしヤコブは、かなり強引な方法でその祝福を奪い取りました。そのような気質はほどなくして、やはり摂理にて神のお取り扱いを受けることになります。母方のおじラバンのもとに落ち延びるまで、石に枕するような野宿の生活をすることを余儀なくされます。おそらくは正確な地図などない旅において、母リベカから聞いた実家への行き方をただひたすらに信じ、行けども行けども続く荒野を旅することは、どれほど心細かったことでしょうか。

　しかし、神さまはヤコブをいじめたわけでも、制裁したわけでもいらっしゃいません。ヤコブはラバンの家にたどり着く前に、美しいおとめ、ラケルに会います。感極まってヤコブは泣きました。血のつながった姪ゆえ、おそらくは愛する母親の面影をどこかでとどめていたであろうラケルに会い、一目惚れしたヤコブは、あたかも自分のしたことに対する罰のようだったこれまでの労苦が一瞬にして報われた、そんな気持ちになったのではないでしょうか。

　ヤコブがこのとき心動かされたその根底には、神さまの導きに対する感謝がありました。神さまは砕くばかりのお方ではありません。すこしずつ、美しい傑作に仕上げてくださるお方です。