牧会コラム222「他山の石」

　かなり昔の本ですが、筒井康隆著のエッセイ集『やつあたり文化論』に、面白いことが書いてありました。世には女性週刊誌というものがありますが、そういう雑誌は「女の悪口」を掲載すると、読者（つまり女性たち）に好評なのだとか。それは編集者によれば、読者たちはそういう女性一般の悪口を読みながらも、「でも私だけは別よ」という心理が働いて、優越感に浸れるからだというのです。

　そのお説の真偽はさておき、悪口というか、人様の失敗やしくじりをそれゆえにけなす記録は週刊誌にかぎらず、この世にあふれていて、読者はそういうことを他山の石とし、人の振り見て我が振り直せ、となるべきなのに、実際はどうなのでしょうか。そういう記事を読んで反省し、すっかり人格が変わってよい人になったという話は、寡聞にして知りません。それは、このエッセイで筒井氏が指摘したような、自分のことを棚に上げて人の悪口を蜜の味のように楽しむ、そんな考えを人々は決して改めようとしないからではないでしょうか。

　聖書もまた、さまざまな失敗や罪の記録、反面教師の例であふれています。しかし、よもや私たちクリスチャンは、それを自らを省み、悔い改めるために主が与えてくださった愛の訓戒と受け取るどころか、いや、自分はこんな人間ではない、ずっといい人間だ、と悦に入るために、聖書を用いてはいないでしょうか。しかし、それでは何のために聖書があるのか、ということになってしまいます。

　私たちは罪人です。それは、私たちが、自分は正しいとし、その、実のところあやふやな基準で人をさばいてしまうような者である、ということです。まず、みことばの正しさに自分を照らし、みことばに記されたさまざまな人の罪の記録は、実はほかならぬ自分の姿そのものだということをいついかなる時も認め、つねに悔い改め、考えも、態度も、ことばも、行いも改めていく必要があります。

　聖書を読む時間は、単なる人生修養や、はなはだしきは「道楽」のように思ってはなりません。これで人生のすべてが変わりつづける、なんともダイナミックな瞬間瞬間です。大切に読みましょう。